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黎明大学に編入した後も、変わりない大学生活が続いた。
講義内容にも特に変化はなく、研究室も似たようなものが多かったため、違和感はさほど無かった。
変わったことと言えば。
朱里は電車通学になった。
そしてその最寄り駅は、翔太の実家の最寄り駅と一致する。
毎回、一緒に帰るようになった。
翔太が所属する合気道部と、朱里が所属する軽音部。
活動日と活動時間が運良く一致しており、部活終わりに一緒に帰るのが日常になった。
「香川先輩?」
翔太の後ろ姿を見つけて、朱里は思わず声を掛けた。
「朱里?どうして駅に?」
周りの通行人を避けるために、二人して端っこに移動し、朱里は翔太と向き合った。
「私が住んでる所、東駅の近くなんですよ」
朱里が笑う。
「え……いつも1人で行き来してるってこと?」
翔太の言葉の真意が掴めず、朱里はキョトンとしたまま頷く。
「ダメ。駅は治安悪いんだから、夜の女の子の1人歩きはダメだよ。俺だって絡まれたことあるのに」
「え?」
翔太まで絡まれたことがあるのは驚きだ。
一体誰に絡まれたのだろうか。
「だから1人歩きは危ないよ」
ほら、と翔太がさりげなく後ろを振り返る。
朱里もその肩越しにチラリと見ると、スーツ姿の男が翔太を見ていた。
いや、翔太越しに朱里を見ているらしい。
目が合った気がして、背筋に寒気が走った。
「だから、ね?一緒に帰ろうか」
脅しみたいで申し訳ないけど、朱里がいなくなることが、俺も怖いから、さ。
そんな翔太の言葉を断るわけにもいかないし、朱里だってストーカーの被害には合いたくないので、素直に翔太と帰ることにした。
「……先輩」
何となく怖いので、朱里自ら翔太の手を取る。
「大丈夫。危ないのは駅の中や電車の中だけだから」
朱里の手を握り、翔太は不自然に見えない程度に早歩きし、改札を抜けた。
あの時、駅にいた男が本当に危ない人だったのかは未だにわからないが、翔太と帰るとき、時折その男を見ることがある。
あの時と同じように、朱里を見ている男を。
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