ココ、ドコデスカ。

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けど、段々、あたしはこの世界が何処か狂って居ることに気付く。 何だろう。千と○尋の神隠し的な。一見楽しそうで、面白そうで。でもその世界の綻びに気付いた時にはどう焦燥しようと現状に抗えなくなって居る、みたいな。 あたしはこれが夢であって欲しいと願いながら、でも背中の痛みがこれは紛れも無く現実だと教えてくる狭間に立って居た。 「うちは、太夫の音夏(おとなつ)云います。そんで、こん子が…」 「天神の君菊(きみぎく)どす。こん子はうちん禿の雪代(ゆきしろ)や。」 た、太夫に天神…。凄い高役職じゃなイカ。 と云うか、やっぱり此処なんなんだろう。禿が居るって相当本格的だ。と云うか、アレ?子供って何時まで働いて良いんだっけ? 勢いで泊まる、なんて云っちゃったけど、やっぱり此処危ない所なのかしらん。 あたしは若干目を白黒させつつ、小さく頭を下げる。 本当は学校でするような礼でもするべきなんだろうけど、うう、背中が痛いんだってば。 「ご丁寧に、どうも。改めまして、葉月流と云います。一晩、ご厄介になります。」 「ええのええの、気にせんで。ほんまならもう一人居るんどすけど。」 音夏さんがぱたぱたと手を振って無邪気に笑う。 「みっちゃんは揚屋どしたか。」 「へえ。」 君菊さん(どうでも良いけど君菊って新選組土方氏のお気に入りの芸妓の名前じゃなかったでしたっけ??あ、やべ、ハナヂ…)が隣の雪代ちゃんの方に少し身体を傾けて聞くと、雪代ちゃんは一つ返事をした。 しかも揚屋って…。どんだけ本格的なんだっての。 身も蓋もない云い方をしちゃえば、えっと、デリヘルみたいなものなのかしら。 「………するってぇと、」 あたしの置かれた状況は余り宜しくないって事か。明日早々に出ないとヤバめかも。 小さく呟いてうんうんと一人で頷いていると、無邪気な笑顔で音夏さんがあたしの顔を覗き込んで来た。 ふと、白粉の匂いが香った。母さんの死化粧の香り。 ひた隠そうと決めた悲しみがひょっこり頭を擡げそうで、あたしは小さく身構えた。 「何か?」 笑顔を浮かべて問い返せば。 「流はんて、けったいな服着てはりますなぁ。」 音夏さんは何処までも無邪気にそう云う。
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