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「………セー、ラ?」
問わずには居られなかった。
だってそこに居たのは。
色素の薄い肌と髪。薄い唇。細い肢体。何もかもを達観したような目。
この人はセーラだ。
「如何かしはったん、流はん?」
雪代ちゃんに手を引かれて小首を傾げた彼女、君菊さん。
彼女は彼女だ。
セーラがこんなにも表情豊かである筈が無い。そもそもあの娘は表情筋が存在するか否かさえ怪しいのだ。目を大きく見開いたり、楽しそうに肩を揺らしたり。
あんなに幸せそうに笑う事なんて、まず無い。
でもこんなにも酷似した二人に、あたしは如何して気が付かなかったのだろう。
「あ、あの君菊さん。つかぬ事をお伺いしますが、土方清羅と云う娘をご存知無いですか。」
___________何か帰り道への手掛かりになるかも知れない。
一縷の希望を託してそう問うたあたしだったけれど。
「……土方はんのお知り合いどすの?」
音夏さんの問いに、君菊さんはちょっと考え込んで、軽く頭を振る。
「セイラ、はん、どすか。聞いたことおまへんな。」
「そうですか。………でもお知り合いに土方さんって居るんですね、珍しい名字ですけど。」
少し肩を落として何気無く云うと、音夏さんが心配そうにあたしの側に寄り添った。
「どないしたんどす?さっきから様子が、」
音夏さんが云い終える前にあたしは彼女を見詰めた。
何だか無性に、心細い。
どう考えても、あたしの生きて居た空気とはまた別のそれが漂う世界。
あたしは、迷い込んでしまったのか。
「帰り道が、無くなってしまったかもしれない、です。」
背中が、痛い。
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