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恐ろしくて、詳しくは聞けなかった。
聞けば、きっとあたしはその恐怖に耐えることが出来なくなるだろう。
ならば聞かずに安穏として居たい。これは甘えか、でも許されるだろう。
音夏さんも、君菊さんも、雪代ちゃんも、訳が分からない様子で困ったようにあたしを見詰めて居る。
そりゃあ、帰り道が無くなった、だなんて。
あたしだって聞く側だったら何だコイツってなると思うもの。
それでもやっぱりこの人達は優しい。
「ほんなら、うちらに伝がありますさかい、帰り道を見つけはるまで其処に行かはりますか?」
音夏さんがあたしの手を小さく握って、そう云ってくれる。
「そんでも姉さん、彼処は。」
「此処に居てはるのも難儀どすやろ、流はんが。彼処なら、少なくとも。」
その後にどんな言葉が続くのか、気にならない訳じゃなかったけど。
でも取り敢えず、あたしは帰る術を探さなくてはいけない。
そのための場所が見つかるのは有難い事だった。
確証は無い。無い。けど。
恐らく、多分。
冗談みたいな話だけど、あたしは時代を越えた。所謂タイムスリップと云うやつか。
此処は風俗営業法に違反した風俗店である訳では無く、紛れも無く平成、昭和より前の時代の島原遊郭である事に間違いは無い筈だ。
でも此処が何時なのか。
時代がどんな風に動きつつあるのか。
それを一早く見極めて、あたしは此処から帰らなくてはいけない。
ならばきっと、あたしは遊郭に居るべきでは無い。
音夏さんや君菊さんにこれ以上迷惑もかけたく無いし。
本音を云えば、遊郭の中に居るって結構ドキんちょだ。
それにしても、あたしは何を冷静に分析しているんだろう…。はぁ。
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