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それから暫くは、皆黙って歩いた。
あたしは未だに行き先を聞いて居ない。
やっぱり月が凄く明るい。
あたしの知って居る世界の月はこんなに明るくはない。
光輝くネオン、安全の為の街灯、マンションのライト、コンビニの看板。眠らない街の象徴。それらに目が眩んだ人間は月の光なんて見ちゃ居ない。
この世界の月光はまるでそれが唯一無二の光であるかのように思えるほど、絶対的で何処か神々しい。
人間の足下を照らす提灯の光など、所詮は風一つで掻き消える儚い光。
…………月になりたい。
そんな事をふと思った。思っても如何にもならない、思った所で何らかの生産性が得られる訳でも無い。
こんな下らない事を考えてしまうのも、あたしがこんな訳の分からない状況に置かれて居る所為か。
今のあたしの存在は一吹きで揺らいで消える程度の存在。それは平成に居たあの時から変わらない事。
絶対的な何かに触れた今、あたしはそれに焦がれてならない。
時代を越えてしまった。それはどうやら信じるしかないようだ。
でも不思議と怖くはない。
生きて居れば取り敢えず何とかなる。これはあたしの自論。
母さんが死んでから特にそう思うようになった。もしも母さんが生きて居たら、あたしと母さんは和解出来たかも知れない。勿論、出来なかったかも知れないけど。母さんを責める訳じゃ無い。それにこれは云っても詮無い事。実際、あたしの母親は既にこの世には居ない。
まあでも、一方で人の運命はあるべきままに進んで居るのだとも思って居る。
あたしが母さんの娘として生を享けたことも、あたしと護が姉弟として生まれた事も、あたしが母さんに反抗的だった事も、母さんが死んだ事も、全部。どんなに小さな事も、全部。きっと何処かで決まって居た事なんだと何処かで思って居る。
人には、天命がある。あたしたちはただ、天命に従って、それでも必死で生きなくちゃいけない。
_________何て酷い世界だ。
あたしは内心毒を吐いて笑う。
あたしが時代を越えた。きっとその理由があるのだろう。
そう、思う。そうすれば、余り怖くは無い。
「此処どす。」
不意に、音夏さんの声がして、あたしは顔を上げた。
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