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午後から私は買い物に出かけた。それも正宗と出会ったところに。
私は淡い期待を抱いていた。
ここに来れば再び彼に遭遇できるのではないのかと。
私は抱かれたかった。今すぐにでも。だからやってきた。
でも、一通り街中を歩いてみたが、正宗に会う事はなかった。
そして不意に寂しさが私を襲った。それも泣きたくなるほどに…。
必死にそれをこらえながら車を停めてある駐車場へと戻った。
車に乗ったと同じくらいに雨が降ってきた。見上げるとドス黒い雲が空を覆っている。
それはまるで今の私の心の中のようだった。それから思った。
なぜ、こんなにも彼を求めるのだろうと。
一度しか抱かれていない男にここまで思い詰めるのは初めてのことだった。
私は正直、困惑していた。
本当に自分は正宗に対して何の感情もないのだろうか…。
もし、無いとしたらどうしてこんな気持ちになるの?
自分自身に問いかけてみたが答えは見つからなかった…。
自宅へ戻ってから再度考えた。そして思い当たったのは…、
「私が正宗に惚れてる」
ということだった。
でも、腑に落ちない。だって、私は彼の事をほとんど知らないのだから。
感じているのは今までの男とは違う、それと身体の繋がりのみ。
私は一体どうしてしまったのか。恋の病にでもかかったの?
そう想えば想うほど胸が熱くなるような気がした。
もう限界…。このまま黙っているなんて私にはできない。
テーブルの上に置きっ放しにしておいた正宗の番号と思われる紙きれに電話をかけてみた。
数回目のコールで相手に繋がった。
「もしもし」
野太い声だった。
「正宗?私。レナ」
「お!レナか。本当にかけてくるとは思わなかったからびっくりしたよ」
「良かった違う人じゃなくて…」
少しの間があり、
「もしかして、俺が適当な番号でも書いて渡したと思ったのか?」
私は黙っていた。すると、
「ずいぶんと用心深いんだな」
「一応私、女ですから」
相手はフッと笑った。
「正宗、今どこにいるの?」
「それは教えられないな」
「また、別な女の子といるの?」
「それも内緒」
私は段々、苛立ってきた。それを抑えつつ、
「明日の夜ひま?」
「ああ。明日なら空いているよ。どうしたんだよ?」
「明日でいいから私と会って」
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