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その日の夜半、といっても既に時刻は日をまたいでいるけど。
私はシャワーを浴びていた。こんな時間になぜかというと―――
そう、彼に抱かれるため。
正宗は1時間程前に起きて、自分のしたことに酷く後悔していた。
いくら若いとはいえ、殴ってしまっては身も蓋もない。そのことに対して深く反省している様子だった。
「俺は父親譲りの荒い気性で、ダメな男だ…」
などと呟いていたものだからつい、私も同情してしまい「そんなことないよ」と否定はしたものの、結局あまり彼のことを知らないものだから、
「じゃあ、慰めてあげる。私を抱いていいよ」
これは私の本意でもあった。それに加え、今の私にはそれしか思いつかなかった。
こういうようなことが1時間の間にあった出来事。
バスタオルに身を包んだ私はテーブルを挟み、彼とは反対のところに座った。
どうしてかというと、私は抱かれる前に話したいことがあったから。
「ねぇ、あなたの本当の名前を教えてよ。私も教えるからさ。それと、アドレスも教えて?」
今までだったらはぐらかしてばかりだったが、ようやく言う気になったのかこちらを見て、
「俺の本名は、堀田、堀田雄二だよ」
実際に訊いてみたらごく普通の名前なんだと思った。
「私は、武井結子。地味な名前でしょ」
笑いながらそう言って携帯電話を取り、アドレスを交換した。
「まだ訊いてもいい?」
「ああ。いいよ」
「雄二に彼女はいるの?」
今まで正宗と呼んでいたので慣れないせいか、言いにくかった。
その質問に彼は黙ってしまった。嫌な間が空いちゃった、と思った。
そしておもむろに雄二は、
「この際だから正直に言う。俺には結婚を前提とした彼女がいる…」
その言葉を聞いて私は断崖に立たされたような気分になったのと同時に頭に血がのぼった。
「じゃあ…、じゃあどうしてあの時街で私に声をかけたの!?」
「それは…」
隠そうとする雄二が尚更、腹立たしかった。
「言ってよ!」
「…仕事と彼女との関係がうまくいってなかったからだ…。むしゃくしゃしてたんだ…」
「私をなんだと思っているわけ!?」
「すまん…。でも、でも今は…、いや…なんでもない…」
「何よ?言ってくれないとわからないじゃない。それに今の雄二の気持ちが知りたい…」
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