はじめにして終わり

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揚げドーナツと冷たいアイスクリームの甘く鋭いコンビネーション。 口移しで錠剤を追加。 4年前に死んだはずの聴覚が、 今や異常に冴えわたる。 耳で聞いているのではなく、 皮膚感覚として、 ありとあらゆる音が毛細血管から流れ込んでくる感じ。 部屋の電気系統が放つジーっという音、 エアコンから噴き出る気流の爆音、 待機するテレビの不遇の唸り、 時計のスタッカート、 隣の部屋の子供の咳、 上階の男女のロシア語の会話、 夜風に揺れる樹木の葉のざわめき、 胃液が食べ物を消化する音、 髪の毛が絡む音、 彼女の筋肉が波打つ音、 私の骨が撓う音、 表皮を爪が削る音、 貫く時の鈍い擦過音、 引き抜く時の鋭い擦過音、 粘液が泡立つ音、 突起を吸われて血が集結する音、 子宮が痙攣する音、 乱れた鼓動、 鼓動、 鼓動。
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