わたしたちの失敗(2)

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 それでも、これまでの失点を可能な限り返上する心づもりでわたしはスタートラインに立った。まわりにいる15人の選手の中には柿崎さんの姿もあった。黒いゴムを咥え、両手で長い髪を束ねる動作は凛としていて、いかにも戦闘準備を整えているふうだった。側頭部に髪の束をポニーテール状に結わえると、彼女は軽く跳ねるように体を上下に動かす。気合い充分といったところだろうか。なんだか勝てる気がしなくなってきた。  が、スタートの号砲が鳴り響いた瞬間から、わたしの目には柿崎さんしか映らなくなっていた。リズムを刻むように地面を蹴る長い脚、激しく揺れるサイドポニー。まぎれもなく彼女は速かった。数十メートル先をゆくその背中をわたしはがむしゃらに追いかけた。かつて、まだ知り合ったばかりの杉本くんと駅から学校まで走ったときと同じように。モチベーションは闘争心ではない。それは向上心というか、「憧れの人に肩を並べたい」という欲求に、どこか似た思いである。  柿崎さんとの距離は徐々に縮まっていった。残り300を切ったあたりでその背中を見つめることはなくなった。毎朝通学でダッシュするのが習慣になっているので、その成果かもしれない。が、残り150に差しかかったあたりから彼女はピッチをつり上げた。ラストスパートだ。やっと手の届きそうな距離まで追いついていたのに、ここで引き離されたらもう取り戻せない。「柿崎に負けんなーっ!」。雄叫びのような甲高い声援が耳に届き、わたしはそれに応えてやろうと思った。結局、最後は闘争心だった。  ゴールした瞬間、自分が勝ったのか負けたのかわからなかった。が、クラスメイト一同がわたしに向けて笑顔で手を掲げていた。ああそっか……。わたしはフラフラになった体をいま一度奮い立たせ、その1人1人とタッチしていった。ノノちゃんは号泣していて、ナカちゃんに支えられながらのタッチとなった。そして最後はこの人が待ち受けていた。エリナは伏し目がちな無表情のまま、右手を自分の頭ほどの高さまで掲げた。  わたしたちの手は、パシッと意外にいい音を響かせた。
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