わたしたちの失敗(2)

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 たしかにチャンスと言えばチャンスだった。この機に乗じて彼に甘えることもできるのだから。が、実際はといえば彼の手を焼かせることに気後れし、大丈夫を連発してしまう。もちろん、ぜんぜん大丈夫ではない。7時間目前に飲んだカゼ薬はちっとも効いてこず、それどころか体調は悪化の一途を辿っている気がした。まるで震える演技をしているかのように全身が震え、おまけに肺が締めつけられるように息が苦しい。昇降口から日没の過ぎた表に出る際、彼は自分のコートをわたしに羽織らせ、さらに有無を言わさぬ動作で靴脱ぎ場にいったん置いたわたしのカバンを持った。ごめん、とわたしは息を吐く。  彼に身を寄せるように、駅までの道のりをゆっくり歩きながら、ぼんやりした頭でわたしは第三の可能性を考えていた。この病気がカゼでもインフルでもない可能性についてである。先日の細かい問診も抗生物質の処方も万一を考慮してのことだったが、その万一の事態が現実になってしまったのではないか……。薄々そんな気がしてきたのだ。つまり、午後になって急に発熱したのは抗生物質の効き目が切れたからじゃないのかと。カゼやインフルに抗生物質は効かない。効いたとすれば細菌性の病気に対してである。  覚悟すべきなのかもしれなかった。過去に一度、既往のある病気の可能性を。  必要以上に言葉は交わさず、10分あまりでわたしたちは駅に着く。帰宅ラッシュのはじまる時間帯で、渋谷方面からやってきた山手線は多くの客を降ろし所々に空席ができるものの、それも瞬く間にいっぱいになる。次のにする? 杉本くんが聞いてくるが、大丈夫とやはりわたしは言った。乗り込んだ右側のドアは品川を出ると開くことはない。わたしたちはそのそばに居場所を確保した。ひとまず電車に乗るところまで行き着いた安心感からか、わたしは息を切らせながらも口を開く。 「ほんと、ついてないよね……。せっかく行こうと、思ってたのに、クリパ」
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