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「なんだよ急に。つーかなんの話?」
「そう。いやいいんだ」わたしは首を振ってみせる。「わたしね、ジュリちゃんが杉本くんのこと好きだと思ってたの。でも違うよね。そうゆうことならいいんだ。うん、問題ないよねぜんぜん。わたしが……杉本くん好きになっても」
重くならないよう、努めてさらりと口にした。最後のフレーズを。
瑕(きず)を抱えた心臓をバクバクさせながら、彼の顔に焦点を合わせる。が、その表情は冴えない。思案するように口が真一文字に結ばれている。
やがてその口が動く。「後期に入ってすぐだったよ、あのコに告られたの」
推測はしていたことだが、やはり当事者から真相を聞かされると驚いてしまう。
「振ったんだ」
「うん」
それっきり、会話は停滞した。徐々に混雑のひどくなる車内でわたしたちは二の句を継げず立ち尽くした。というか、わたしはドアに寄りかかりかろうじて立った姿勢を保っていた。うっかり気を抜くと膝が折れそうになる。上がりすぎた熱はいよいよ意識を侵す。なんだか夢を見ているみたいに、視界に映るあらゆる輪郭がぼやけ、色彩感覚さえ曖昧になる。須藤ちゃん、と彼が体を支えてくる。大丈夫、とわたしは精一杯口を動かす。
上野に着き電車を降りると、朦朧(もうろう)としていた意識は若干持ち直す。さて、これからどうしよう。階段に集中する人混みを横目に、わたしたちはホームにとどまる。わたしが思いのほか重症だと知った彼は、今夜はウチ泊まってけと言う。で、あした病院行くなり親に迎えに来てもらうなりすればいいだろ、と。でもわたしは杉本くんだけでなく瑞希さんにも迷惑かかるからと断った。なにより処方薬が家にある。心配する彼を説き伏せ、お母さんに相談することにした。
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