わたしたちの失敗(2)

2/21
前へ
/21ページ
次へ
「ジュリちゃん……きょう大丈夫?」  言い終わるより先に、彼女は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。 「いーよいーよ気にしないで」そんな彼女の様子に気後れしながら、わたしは努めてあっけらかんと言った。  返事なんてわかりきったことだ。いちいち断らせるのは心苦しくも思う。でも声をかけずにはいられないのだ。  ごめんねと小さく言う彼女に聞いてみる。「ねえ実際のとこどうなの家庭教師って」 「どうって……フツーだよ」 「フツーか……」  うーんとうなって彼女は続ける。「ちょっと息苦しいかな? わたし呑み込み悪いからさ。まあ学校と違って一応『お客様』って扱いだからあからさまに怒ったりはしないんだけど……やっぱ苛立ちは伝わってくるってゆうか……」 「ふうん。そか……」 「正確には親が『お客様』なんだけどね。わたしの成績上がんなかったらあの人たちクビになっちゃうし。だから必死なんだと思う」 「ふうん……」  なんだか月並みな相槌しか打てない自分が情けない。ジュリちゃんだって必死に違いないのに。  むずかしいね。そう言いかけたとき、「あっ、エリちゃん」と彼女は声を上げた。「アレありがと。助かったよ」  そばを通りかかったエリナが「おう」と返す。ほぼ同時に、エリーと呼ぶ声がして、油彩道具とスケッチブックを携えた彼女は教室を出てゆく。 「ジュリ~、行くよー」ナカちゃんの間延びした声が響いた。 「じゃ、あとでね」  ジュリちゃんは音楽の教材を用意し、ナカちゃん、ノノちゃんとともに教室をあとにする。  2時間目が終わって5分ほど過ぎた教室には、もうクラスメイトの半数ほどしか残っていなかった。わたしも油彩道具などを準備し1人で教室を移動した。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加