わたしたちの失敗(2)

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 はいはいフツーにしてますよ。『掃き掃除をしている少女』の構えを取ると、先生はようやく開始の合図をする。とかくこの人は遊び心が旺盛でしばしば生徒を困惑させる。エリナがモデルをしたときなど、スカートの裾を両手でつまんで広げるぶりっ子ふうのポーズを取らせたほどだ。エリナ自身もノリノリだったが(困惑したのは描き手であるわたしたちのほうだった)。  静寂の中、30人近い生徒が各々断続的にこっちをガン見し、スケッチブックに鉛筆を走らせる。クロッキーはあくまで、週1回しかない授業のウォーミングアップという位置づけで、できた作品は提出を求められない。描き方も自由だった。だから女子がモデルの場合、男子の一部がふざけ合って超ミニスカにしたり巨乳にしたりといったことがままあるようだ。  ……なんでもいいけどさ、かわいく描いてよね。  その間、先生はみんなの絵をちらちらと見てまわる。もちろん描き方を自由としている以上、これといって口出しはしない。  ところが先生はエリナのそばでふと足を止めた。スケッチを覗き込むように見ながら声をかけ、エリナが応じる。2人とも笑みを浮かべている。交わされる会話はまったく聞き取れない。  それからほどなくクロッキータイムは終わった。教卓から下り席に戻る際、わたしの視界にエリナの様子が映る。なかば意識的に見たというべきかもしれない。  彼女は描いたスケッチを剥がし、まるで失敗作を扱うようにグシャグシャに丸めていた。  その後、メインである静物画の制作に取りかかる。対象物は丸い木製のテーブルに置かれたカラフルなフルーツバスケット。いつも10人ほどのグループで決まった位置からそれを取り囲むのである。わたしの隣にエリナがいる。作業中、お互い寡黙になるのはいつものことだった。
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