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杉本くんと会話できる……。ようやくその念願が叶うわけだが、もちろん嬉しい気持ちなんて一片もない。きっかけが皮肉すぎるし、まして楽しい話になるはずもない。
ともあれ、場所はわたしが決めた。前にナカちゃんたちと来たことのある学校近くの喫茶店である。そこなら静かで話がしやすい。
現地へ向かう際、わたしが先を歩き、彼は黙ってついてきた。言い争いになる可能性を考え、他の生徒の目に付きやすい道すがらの会話を一切拒んだのだ。
店に入ると、わたしたちは2人用のテーブルを挟んで向き合った。ウェイターがお冷やとおしぼりを運んでくると、その場でコーヒー2つとわたしは告げた。
「じゃあはじめよう」彼が静かに言った。「まずはおれが……その、あんまりメールの返信とかしなかったことなんだけど……」
「そのことはもういいや」わたしは首を振った。「仕事、忙しいんでしょ? 勉強がたいへんなのもわかってる」
「いや須藤ちゃん……」
「杉本くんがわたしのこと嫌いで避けてるわけじゃないなら、それでいいんだ」
「……」
先ほどのメールのやりとりで『須藤ちゃんは全然悪くない』という返答を得た。その時点で、この件はひとまず終わりということで差し支えなかった。彼の態度がそっけなかった本当の理由については、じつはすでに見当が付いているのだから。
彼とじかに対峙することで、わたしの頭はもう冷えていた。
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