わたしたちの失敗(3)

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「時間かかるかなー」受け取ったココアを口にしながら、天候の話でもするようにわたしは言った。「人身事故ってさ、復旧するのに2時間とかかかったりするよね」 「短けりゃ1時間くらいで済むけどな。まあ状況によって違うんじゃね? 体が車輪で引き裂かれたり肉片が飛び散ったりしたら時間かかるだろうし」  げっとわたしは顔の筋肉を強ばらせる。そんな死に方、絶対したくない。  運転見合わせは続いた。山手線内回りは再開見込みとのことだが、これだけ動いたところで殺人的混雑になるのは目に見えている。どうせ不可抗力なのだからと、わたしたちは素直に品川方面の電車が動きだすまで待つことにした。しかし、寒い。駅構内とはいえ空調が効いているわけではなく、構造物によって風はほぼ遮られているものの空気の冷たさは外と変わらない。事故現場で作業に当たっている人はさぞかしたいへんな思いをしていることだろう。もっともわたしはこの状況をラッキーと思ってもいた。長い時間2人きりになれる機会などそうそうない。思わぬアクシデントがもたらしたプチデートである。他愛のない話に花を咲かせながら、きょう一日このまま過ごせたら……とさえ思う。  結局、わたしたちが学校に着いたのは10時半過ぎだった。昇降口で靴を履き替えると、品川駅でもらった遅延証明を手に事務室へ向かう。遅刻した場合、入室許可証なる書類が必要になるからだ。事務室前にはすでに何人もの生徒が列をなしている。  その中に、彼女の姿もあった。
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