わたしたちの失敗(3)

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 ドキドキしながらその横顔に声をかけた。「柿崎さん」  あ、と彼女は目を丸くする。「もうよくなったんだ」  おかげさまでといったん顔を伏せ、また見上げた。「あのときはありがとう……。お母さんも感謝してた。ほんとに……」 「いいの。うん、元気になってよかった」  うまくお礼を言い尽くせないわたしに、彼女はそう言って微笑んだ。思えば、はじめて顔を合わせたときも彼女は同じように微笑んだ。以来、わたしは良くも悪くも得体の知れないイメージを彼女に抱いてきたが、容姿が図抜けて美しいほかはきっと普通の女の子なのだ。よかったというのは社交辞令でなく、裏表のない本心のように思えた。彼女もわたしのことをいろいろ聞いていたのかもしれない。  身内以外で最初にお見舞いに来たのはエリナでも杉本くんでもない。河田くんだった。いくら柿崎さんの登場によって疎遠になったとはいえ、10年来の付き合いなのだ。遅かれ早かれ彼が来ることは予想していた。ただ、この期に及んで彼を歓迎できる気分ではなかった。だから事前にメールが来たとき、いいよお見舞いなんてと断った。それでも彼は、きちんと話したいことがあるとわたしに告げた。  いまさらなんだろう……。思いつつ、彼を迎えることにした。造花の盛られたバスケットを携え病室に現れた彼に笑顔はなく、「どう? 大丈夫?」と真摯にわたしを気遣った。大丈夫、とわたしは努めて笑顔を見せ、少しの雑談ののち本題に迫ろうとした。すっかり助けられちゃったよ柿崎さんに。いいカノジョ持ったよね。  ねらいどおり、「柿崎は……」と河田くんは彼女との関わりを語りだした。はじめはなんてゆうか……暗いやつだったよ。クラスの大半は附属中の出身だから無理もないんだけど、あいつの場合周囲と壁つくってて人寄せつけなくて。じつは柿崎も附属中の出身じゃないんだ。そう茨城。群馬と似たようなとこかと思ってたけどあっちは海沿いなんだよな。とにかくおれらと同じでよその出身みたいだから声かけてみたんだ。
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