わたしたちの失敗(3)

13/16
前へ
/16ページ
次へ
 おれだってはじめは相手にされなかったよ。  きっかけはテスト勉強だった。5月にやったあれ。須藤ちゃんと同じで彼女数学が苦手でさ、おれのこと頼ってきたんだよ。梅高なんて入っていきなし数Ⅰとかだし。でもそれだけじゃなくて、たぶん彼女も心を開く相手が欲しかったんだと思う。もちろんわかってたよ、彼女と親密になったら須藤ちゃん傷つくって。でもほっとけなかった。だってあいつ、ほんとは明るくてボーイッシュで、見た目はあんなでも気性荒くてなに言ってっかわかんないくらい訛ってておまけに納豆好きなんだから。ほんとならそれなりに楽しい高校生活送れたはずだったんだよ。あんなことさえなければ。  震災だよ。東北に近いから結構ひどかったらしいよ。家が傾いたり壁にひびが入ったりしたみたいだし。でも問題はそんなことじゃなくて……。須藤ちゃんだから話すけど……あいつの親、原子力関連の会社の役員なんだよな。……わかるだろ? いや、ばれるばれないの問題じゃないんだ。親の職業なんて話さなきゃいいんだから。ただ、やましい気持ちだけはどうにもなんないんだよな。もちろん万一ばれたらって思いもあるだろうけど。  彼の話を聞きながら、わたしは小学時代のことを思い出していた。あれは2年のときだったか。授業参観で作文を発表したことがある。お題は『おとうさん、おかあさんのおしごと』。わたしはお父さんが『ぎん行』で『えいぎょう』の仕事をしていると元気よく読み上げた。もちろん当時、その詳しい中身を知っていたわけではない。ただ窓口の仕事と違い、原付バイクに乗ってお客さんの元をまわっているというお父さんの話をまとめただけだ。銀行の仕事について具体的なイメージを掴んだのは『華麗なる一族』というドラマがきっかけだったが、のちにわたしは『貸し渋り』や『貸し剥がし』といった言葉を知った。同時に思い出されたのは幼い頃のおぼろげな記憶だった。ひどく憔悴した様子で黒いスーツを身に着けるお父さんの姿……。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加