わたしたちの失敗(3)

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 お父さんが胃潰瘍で入院したのはその直後だったと思う。具体的になにがあったのかは聞いていない。聞いたところで教えてはくれなかっただろう。それでも理解はできた。決してきれいとはいえない仕事で得た報酬が当時のわたしたちの生活を支えていたのだと。  とにかく、柿崎さんにとって彼は自らの葛藤を打ち明けられる唯一の相手だったのだ。2人は出会ってたったひと月で付き合うまでの関係になった……。  いったん目を閉じて深呼吸し、彼に言った。大切にしてあげなよ──と。  さて、休み時間中の教室に入ると、「あ、須藤ちゃん」と声が上がり、いっせいにみんなの注目が集まった。心配かけてゴメンナサイ……。そう言って席に向かおうとしたとき、教卓付近にあった自分の席がふさがっていることに気づいた。あっ、あんたの席そこ。友達と談笑していたエリナが近づいてきて、最前のその席を指した。そして彼女の席はそのすぐ隣、前にジュリちゃんがいた教卓の真ん前だった。ここなら都合つけてやっていいってクロちゃんが。どうやら冬休み明けの席替えの際、作為的に彼女の隣にされてしまったらしい。ま、仲よくやろーぜ。彼女はぽんとわたしの肩を叩くと、アイツは? と声を潜めて聞いてきた。そのうち来るんじゃない? とわたしは曖昧に答えた。  ところで、人身事故のことは校内の至る所で話題になっていた。最寄りの品川駅で起こっただけに現場の目撃者が何人かいたようで、警察から話を聞かれた人もいるらしい。噂によると、事故に遭ったのは「制服着た女の子」とのことだった。
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