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目が覚めた瞬間、ここがどこか忘れていた。が、杉本くんと別れてからの顛末(てんまつ)はコンマ何秒かのうちに脳裏に再生される。あ、そうだ……。ひらめくような感覚を覚えると同時に、涙が溢れてきた。顔を少し横へ向けると、ベッドのそばに座っていたお母さんが「起きた?」と言った。
都内の病院である。急患として運ばれてきたわたしは、診察と検査をひと通り終え、ナースステーションの片隅に用意されたベッドで寝ていたのだ。大量の汗をかいたせいで体全体に不快な湿り気が残っているものの、熱はすっかり下がっていた。左腕に点滴の針が刺さっている。
「ごめんね」
わたしが言うと、「なに言ってるの」とお母さんもかすかな鼻声で返してくる。
情けない限りだった。あれから新幹線のりばへ向かったわたしは、人の行き交うコンコースのど真ん中であっけなく行き倒れたのである。上半身がよろめき膝が折れ、床に手を着いた。そこから重力に逆らうことは叶わず、そのまま横向きに寝転がった。さすがは日本だ。都会の人は冷たいなんて言われるが、人混みの中横たわる少女を通りすがりの人は放っておかなかった。最初、スーツを着た年嵩の女性が、大丈夫? と腕の付け根のあたりを叩いてきた。それから、はたちくらいの私服の女の子が数人続いてきた。騒がないで、そんなに寄ってこないでという気持ちもあるにはあったが、それよりもこの状態から救ってほしいという気持ちのほうが勝った。誰かが額に触れ、すごい熱と言った。やばいよこれ。救急車呼んだほうがよくない? とりあえず駅員さんに……。それからまもなく、大丈夫ですか? お名前言えますか? と男の人に呼びかけられた。いま思うと、相手が未成年だけに誰もがよけいに戸惑っていたのかもしれない。とにかく身元を伝えるべきだったのだが、そのときはかけられる言葉を把握するだけで精一杯だった。
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