わたしたちの失敗(3)

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 翌日、わたしは前橋の病院へ移った。先日の血液検査の結果などと合わせて、感染性心内膜炎と正式に診断された。敗血症の一種で、心室中隔欠損を抱えたわたしはつねにこの病気に罹るリスクと隣り合わせといえた。先に罹ったのは小学4年のときだ。あのときは2か月近くに渡る入院を余儀なくされた。なお、今回も前回も感染ルートはわからないままだった。つまり、完全に予防する手立てがない点もこの病気のこわいところである。  ともあれ、気の遠くなるような入院生活がはじまった。四六時中、点滴と心電図の小型送信機につながれベッドで過ごす日々が。循環器病棟に若い人は少なく、あてがわれた大部屋で十代(しかも前半にしか見られない)のわたしは浮いていた。若いのにたいへんねぇ、と向かいのベッドの老婦人に事あるごとに言われては苦笑いを返すはめになった。そんな中、毎日お見舞いに来てくれる家族の存在はありがたかった。気まぐれで姿を現す佳太でさえいい話し相手になった。また、公立の受験を間近に控えた彼は数学の問題集を手にしていた。姉ちゃんココわからん。あんたまだこんなとこで手こずってんの?  そんな、年の瀬の迫ったある日、エリナが来ることになった。本当なら午前中には着くはずだったのだが、渋谷で電車を乗り間違えて「杉本んち(実家)のほう行っちゃった」らしく、彼女が病室に現れたのは14時過ぎだった。あのリョーモー線とかゆうのなんなの? 1時間に1本しか来ないし、と彼女は自分の失敗を棚に上げ口をとがらせた。 「あ、受付んとこでお母さんとケータくんに会ったよ」
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