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「そうなんだ」2人がこの病室を出たのはついさっきのことだった。
「でさ、今夜あんたんち泊まることになったから。5時くらいにお母さん迎えに来てくれるって。あんたの部屋使っていいよね」彼女はなんの遠慮もなくそう言った。「ケーくんにまた勉強教えたげよっかな~」
「勉強?」わたしは声を上げた。「それに『また』って……」
「前にあんたんち泊まったときだよ。ほら、あんたと杉本が出かけてるあいだに」
あんたと杉本うんぬんを彼女は強調した。わたしはあのとき、てっきりエリナも茶の間で酒盛りに加わっているのだと思っていた。が、彼女は佳太の部屋にいた……。
いっきに頭に血が上る。わたしは上半身を起こし、彼女の着ているコートを真正面から両手で掴んだ。「ベンキョウってなに? ケータになにしたのっ!」
「は? 勉強は勉強……。ってべつにフツーの勉強だよっ! ピタゴラスの定理とか」
「ピタゴラ……!?」ふと我に返り手を離す。「……フツーだね」
「どーゆー勉強だと思ったのあんた」
「……」
「帰るっ!」彼女は怒りを抑えなかった。「そんなふうにあたしのこと見んならもういいっ! せっかくノノちゃんからゼミのノート預かってきたのに」
踵を返す彼女へとっさに手を伸ばす。「ノノちゃんから?」
「そうだよっ。理系はこれからたいへんだから渡したげてって。言っとくけどさ、あんたが思ってるほどあのコあたしのこと嫌ってないから。心配してたよ、うちらけんかしてんじゃないかって。けんかの原因までは知らないみたいだったけど」
「そうなんだ……」わたしはため息をついた。
「まさかクロちゃんをね……」
はっとした。「エリナもしかして……問い詰めた?」
え? と彼女はとぼけるふうに首を傾げる。いかにも怪しい素振りだ。
「ひどい! なんでそーゆーことすんの?」
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