第1話

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あのピンチを無傷で脱出できた僕は、大人しく帰り道を歩きながら、先ほどまでの事を振り返っていた。 「流石は、鉄壁」 そう口から漏れた言葉。鉄壁というのは身体のラインだとか、一昔前のスケバンのカバンに仕込まれた鉄板だとかいう意味ではなく、彼女の人間強度を評してつけられた、彼女、梶前由姫のあだ名である。  入学から、早1ヵ月。すでに彼女は浮いていた。ここでいう浮いていたとは、もちろん、超能力やそれに準ずる何らかの力などで重力を無視して地上から浮いているというわけではなく、雰囲気的に孤立している。という意味である。  ある種自分から望んでそうなったようにも見える立場で、彼女は生きていた。クラスが違うのでよく知らないし、僕も彼女と同じで、人間強度が高いので友達なんて片手で数えるくらいしかいない。故に、彼女の情報は風の噂程度にしかわからない。そんな僕でも知っている情報、それが彼女は鉄壁だということ。そして実際会って感じた、自ら嫌われに行っているような態度、雰囲気。  そもそもの話、僕が彼女に興味を持つことはなかったのだ。なんせ、僕のような人間強度の高い人間は、他人に興味なんて持たないからな。だが、なぜ僕があのような目に遭っていたか、それは僕の大切な妹のためだ。    数日前、下の妹である優希(ゆうき)ちゃんが公園で、不審な女子高生と遊んでいたというのだ。いや、まあ、女子高生なのに不審という時点でおかしい話なのだが……。そこで、調査を上の妹である美希(みき)ちゃんに依頼したのだ。依頼といっても、それを見つけたのが他の誰でもない美希ちゃんであり、引き続いて同じ不審者がいるなら手がかりになる特徴やらを見つけてきて欲しいといっただけである。そして、美希ちゃんが探してきた手がかりこそ、あのカバンについていたキラキラジュエルなのだ。聞けばその女子高生、僕と同じ学校の一年生(ブレザーのタイの色でわかったと言っていた)で、制服のまま犬の散歩をしていて、優希ちゃんとその友達が犬と戯れ始めると写真を撮り始めたらしい。……まぎれもない不審者だった。僕はその情報をもとに、犯人探しを始めたのだった。
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