第1話

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 カバンについているキーホルダーと言っても、学校で自分が所属していない教室へ行く理由も機会もない僕は、とりあえず教室の中の女子のカバンを眺めることにした。1学年の女子の人数が100名弱、この教室に20名程度なのでもしかしたら……という期待を込めていたのだが、どうやらこの教室にはいないようだった。  早速行き詰ってしまった。人間強度の高さを有する人間が故の仇であった。  放課後、この日一日、授業中も休み時間も使って導き出した答えは、現行犯を捕らえるという至極普通の答えであった。何時間も費やした割には、特に名案という案が浮かんでこなかったし、なにより人間強度が高いので、最初にでた案を一番と思ってしまい、他の案が思い浮かばなかったことが原因だろう。この原因は分かっているのだが、対処のしようがないので、また同じ浅慮を繰り返すことであろう。  放課のチャイムが鳴り、部活にもはいってない俗に言う帰宅部の僕は、なにはともあれ学校から出ることにした。そして、その途中で、犯人を見つけたのだ。 見つけた。というよりは みつかった。 のほうが的確かもしれない。あのキーホルダーのついたカバンが見えたのだ。僕はここで、先ほどの策とはいえない策を忘れ、犯人をストーキングもとい、尾行しようと判断してしまったのである。 結果、途中でミラーのない見渡しの悪い十字路で待ち伏せをされ、懐で凶器を突き付けられ、病院送りの寸前まで追い詰められることになり、呼び出しをくらってしまった。展開としては最悪のパターンである。  幸か不幸か呼び出しの相手は同じ人間強度の高い彼女である。病院送りにはなりたくないので、呼び出しにはおとなしく応じるとして、そのあとの展開が予想できない。人間強度の高い人間は他人には興味がないので、自分の世界を形成していることが多々ある。なので、展開というか会話の対策ができないのだ。……会話の対策などと言ってる時点で、僕は相当に人間強度が高い人間だと実感することができる。  僕は、いろいろと考えていたが、人生はなるようにしかならないのだ。と諦めた。そう、今日の夕食が美希ちゃんの担当だとしても、である。家では、母親と美希ちゃんの早く帰ってきたほうが夕食を作るという決まりになっている。  家に帰りついた僕は、駐車スペースに母親の車がないことに絶望しながら家の中に入って行った……
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