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「いいよ、花菜。パンケーキもそろそろ終了だし」
「ごめんね、ありがとー」
花菜は田中にテーブルへと促される。
そこには成宮充がいて、「お疲れ」と言ってにこりと笑う。
「……いらっしゃい。ふたりで来たんだ?」
意外な組み合わせに驚きを隠せずにいた。
田中が苦笑する。
「たまたま休憩が一緒になったんだ。あ、それでさ、本題な。俺の当番の時にさ、矢澤の絵を見て、本人に会いたいって人がいて」
「え?!」
「いや、それがさ、絵が目当てって感じじゃなくて」
「……どういうこと?」
一瞬、専門家の目に止まったかと期待してしまった。
自分の絵の実力はわかっているつもりだ。単に描くのが好きなだけだ。
「だって中学生だぞ?だから、顧問にはまだ言ってないんだ。先に矢澤に言っとこうと思って」
「中学生?」
どきりとする。
「うん。中3だってさ。まあ、礼儀正しかったし、変な奴じゃなかったな。これ、連絡先だってさ。今日は学祭が終わるまでいるって言ってたぞ」
田中からメモを渡される。
『佐倉直人 090-××××-××××』
それまで黙っていた成宮充が口を開く。
「知ってるやつ?」
「……う……ん」
何故だろう。先程会った時は何も言わなかったのに。
絵を見て?
名前だけ知っていたのだろうか。
考えがまとまらず、頭の中がぐるぐるとまわる。
「大丈夫か?会うのが不安なら一緒にいるか?」
成宮充が俯いていた花菜を覗きこむ。
「…………」
会う?
向こうの親にも言わずに会ってよいのだろうか。
あの時は、本人には伝えていないから知らせないよう言われていた。
だが、名前を見て連絡を取りたがるという事は、知っているのだろう。
葬儀の時の、佐倉直人の暗い表情を思い出す。
弟がいたという事を嬉しく思って、父親の葬儀に行ってしまった。
彼はずっと一緒に暮らしていたお父さんを亡くしたんだった。悲しくて当然だ。
一度しか会っていない自分とは、悲しみの深さが違う。
自分の冷たさを目の当たりにした。
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