第1章

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ぐっと首を伸ばすと、わずかに男の黒髪が見えた。 携帯電話を取り出しては、またポケットに戻す彼は、表情を見ることはできなかったけれど、時折雪を蹴る仕草は機嫌がいいようには見えなかった。 もちろん、不機嫌の原因は紗江たちにあるのかもしれない。 が、それだけではないのだとしたら……。 だいたい、彼はこんなところで何をしているのだろうか。 彼が顔を上げようとしないことに安心した紗江は、いつしか柵にもたれるようにして彼を眺めていた。 寒さに耐えかねて男が体を震わせるたびに、黒髪が振り回されて光を放った。 そんなに細かく彼を観察していたところだったから、何を思ったか、彼が急に顔を上げた時にも、紗江は身動きすらできなかった。 そして、ばっちり目が合ってしまった後、彼が眉を吊り上げるのを見てしまったところで、ようやく逃げ出したのである。 急いで部屋に滑り込んで、窓を閉めてしまうと、ついでにカーテンまで勢い良く閉める。 すっかり外の世界を遮断してしまっても、まだ、胸はドキドキと騒ぎまわっていた。
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