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紗江の頬が赤らんだ。
照れているわけではない、馬鹿にされたことが悔しいだけだ、と自分に言い聞かせる。
「そんなこと、言ってほしくないです。
あなたが、ここで何をしてたって、私には関係ないし」
と、紗江が言うと、男は
「ああ、そう」
と呟いてマンションを見上げた。
「じゃあ、失礼します」
早く男から離れたくて、それだけ言って、素早く男のわきを通り過ぎようとした。
ところが、男のほうがそれを止めたのである。
「ちょっと待ってよ。せっかく、また会えたんだしさ。
もうちょっと、話していっても良いでしょ」
「え?」
「ね。俺、まだ名前も知らないんだし。
せっかく、告白してくれたのに名前も知らないんじゃ、これから先に進めないと思わない?」
「告白なんてしてないです!」
紗江の声が響く。
思いがけず大きな声を出してしまったことに、彼女自身が驚いていた。
恥じるように顔を伏せると、男が優しく肩に手をかけて言った。
「まあまあ。とりあえず、ロビーに入ろうよ。寒いしさ」
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