第1章

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最悪だ。 本橋紗江(もとはし さえ)は、彼と目が合った瞬間、そう思った。 チラリと隣を見れば、何かを察知したらしい友人の原田典子(はらだ のりこ)が、早くもニヤニヤ笑っている。 今の今まで大声で話し合っていた女子高生が、自分に気がつくなり、急に声を潜めたとなれば、男のほうも嫌な気分になったに違いない。 大学生らしい男は、紗江を睨むように目を細めている。 紗江は知らん振りをして顔を背けてはみたものの、心の中でタイミングの悪さを嘆かずにはいられなかった。 本当に、最悪! 紗江は大きく溜め息をついて、軽々しくも話を始めてしまった15分前の自分を呪ったのであった。
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