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「どういうつもり?」
部屋に着くなり、紗江はジロリと典子を見た。
「こっちこそ、聞きたいよ。どういうつもりなの、紗江。
あんなチャンス、二度とないのに。もう会えないんだよ?」
と、典子は怒ったような声をあげる。
これには紗江も一瞬たじろいだが、すぐに姿勢を正して言い返した。
「一目惚れしたなんて、言ってないでしょ。
もう会えなくたって、べつに良いの」
「本当に?でも、あの人だって、ちょっと紗江のこと気にしてた感じじゃない?
向こうから話しかけてくれたんだしさ」
「そんなわけないでしょ。私達が、あんまり見てたから……怒ってたんだよ」
紗江の声が急に弱々しくなる。
が、典子は全く気にしていないようだった。
「大丈夫だって。そんなことより、今行けば、まだいるかもしれないよ?」
「だから……!」
声を荒げてしまってから、続けるべき言葉の先が思いつかなくて、口を閉ざす。
このまま言い争っていても、仕方がなかった。
典子は、こういうところは頑固で、自分が正しいと思ったことは、紗江が何を言っても聞いてくれないのである。
もちろん彼女なりに紗江のことを考えてくれているのだと分かってはいても、この点にはいつも閉口させられる。
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