1章『開幕』

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「えっ……全然気付かなかった」 話しかけられたのは少し離れた所だった。 それよりも向こう側の時からずっと声をかけていたらしい。 「ご、ごめん……」 「気にするな。 それより、提出は間に合ったのか?」 隼人が理科室の扉に目を向けながら問う。 「うん、なんとか。向田先生まだ理科室に居たから良かったよ」 聖花は胸をなでおろす。 提出期限ギリギリのところを滑り込みセーフといった具合だ。 「まあでも珍しいな、聖花が課題すっぽかすなんて」 「ほんとうっかりしちゃってた……まさかやってたプリント毎家に忘れちゃうなんてね……」 うー、と唸って悔しそうな顔をする。 ちょっと寝過ごしたのが悪かった、とぼそぼそっと一言加える。 「間に合ったなら良かった。 今日は、このあとどうする?」 問題は解決したとみて、隼人が問いかける。 「新しい服をそろそろ買おうかなーって思ってて……その、いいかな?」 上目遣いは破壊力があるのを知ってか知らずか、隼人よりも頭一つ分小さな聖花は隼人を見上げながらそう言う。 しばらくはそのまま聖花のことを見つめていた隼人だったが、たまらず視線を逸らして、 「ああ、問題ない」 と、素っ気なく返した。
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