第1話

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彼女たちを避けてから結構経つ。そんなある日,私は思い切って声をかけた。 「おはよう」 明らかに聞こえていたはずだ。それでも無視されてしまった。彼女たちが笑いながら通り過ぎていったのを鮮明に覚えている。悲しくなった。無視されるどうこうではなくて,居てても居てなくても分からないようなそんな存在だと判断されてしまったのだ。昔から自意識過剰だと親から言われてきたから考えすぎかとも思ったがあのわざとらしい笑みを見るとやはりわざとなんだと思ってしまうのだ。 「夏休み」という単語に敏感になりつつありクラスも浮かれ気味になっていた。蝉の鳴き声が聞こえて,教室に響く。夏休みの予定はどうだとか皆の会話はやはり夏休みについてで,私は窓際の席ですました顔で外を眺めていた。そんなある日,「ねぇ,蛍光ペン貸して」中学時代からの友人である千夏から声をかけられた。彼女がこのクラスで恐れられている女の子である。そして,私の事をSNSに書き込んだ張本人。別に彼女の家が大金持ちとかそういうわけでもないのに何故か人が集まっていた。 「えっ」 戸惑ってしまった。普通に貸せばいいのだが,彼女達のことだ。何か意図があるに違いない。そう思った。その時は化学の授業。懸命に汗を拭いながら説明をする教師に対して何やら小言で話している人たちもいたのだがそんなのを気にしていないのかどんどん進めていたところで,授業に集中したいので渋々蛍光ペンを貸した。ピンクの鮮やかな蛍光ペン。何に使うのかとか,そんなの考えもしなかった。ちらっと横を見ると紙に大きく私の悪口を書いていた。「栞なんて死ねばいいのに」絶句した。死ねばいいのに,その言葉が深く私の心に刺さった。まるでナイフのよう。刺して,深く抉るようにその紙をどんどん他の女子に回していくのである。それを見て悲しくなったし,それを笑いながら見てる他の女子達にも苛立ちを覚えた。死ねばいいのにと書かれている紙を見て笑える方が不思議でならなかった。それもまた,私が彼女たちを嫌いになった原因となった。そして暫くして「有難う」って言って平然と返す千夏の態度に私は黙り込んでしまった。言いたかった,文句のひとつくらい。それでも怖くて口を閉じてしまったのだった。
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