序章「HAPPY BIRTH DAY」

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「ふんふふーん」 鼻歌に合わせてイチゴを洗って半分位は包丁で縦に二等分していると、甘い匂いが1Kのアパートの一室に広がりはじめる。 そろそろかなと、ケーキの匂いが充満してきた頃に、オーブンが時間を知らせるアラームを響かせた。 先日中学二年になった妹から貰った、可愛らしい刺繍がついたキッチンミトンを両手に着けて、焼き上がったスポンジケーキを鉄板ごと取り出す。 焼き色も、ふんわり具合もバッチリ。 自分でもその出来具合に満足して一人で首を縦に振る。 スポンジをお皿に取りだし、粗熱を取っておいて、その間にお湯を沸かして、そのお湯にグラニュー糖を溶かしてシロップを作る。 「ふぅ、一段落かな……とっとっと」 ここで作業が落ち着くタイミングを、ピンポイントに図ったように携帯に着信が入る。 画面には母とでかでかと表示されている。 「もしもし、母さん?」 「みーくん、16歳の誕生日おめでとう。 お母さん感動で泣きそうよ。 もう女の子だったら結婚できる年なのね」 「なんで女の子だったらで考えるのか分からないけれど、うん、ありがとう」 「ねえ、そっちは寂しくない? いつでも帰ってきていいのよ? こっちから通ったっていいんだからね?」 「いやいや、家からここまでどんだけ時間かかると思ってるのさ」
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