傷を抱えて

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「副長……副長!」 「ん……んん……?」 「到着致しました。降りるご用意を」 「ああ……わかった」 ーーまたあの夢か…… ーー1950年.昭和25年 日本の地に、1人のアメリカ軍人が足を下ろした。 その表情は曇りきっており、その土を踏むことをあまり望んではいなかったのであろうという心情が手に取るようにわかる程だ。 ーーなぜ私が猿共のために…… 彼は心の中でそう悪態をつきながら、乗ってきた飛行機に寄せられた車両に乗り込んだ。 車両は空港を後にし、街へと進む。 街、とは言っても、そこは綺麗な街並みであるとはお世辞にも言えなかった。 ましてやこれがこの国の首都であること自体、事情を知らぬものが聞いたら信じるだろうか。 戦火からやっと解放された今も、深く抉られた傷は未だに癒えてはいなかった。 そんな街ーー東京の街並みを、車両の中から窓越しに眺めていた男だったが、特に感じるものは何もなかった。 あるとすれば、それは ーーこの国の連中は数えきれぬ程の仲間を殺したのだ、こうなって当然だ! という思いだけであった。
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