第1話 約束

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 昨日から降り続く雨はまだ止みそうにない。 「お茶、淹れたから」  しっとりと濡れた草木を恨めしそうに見つめる横顔に声をかける。 「いつまでそうやってるつもり?」  濃い目に煮出したお茶にたっぷりのミルク。  これくらいで機嫌が直るとは思わないが、最善は尽くしてみる。 「また来ればいい」  寄越された視線は非難の色を湛えている。 「前にそう言ってから、どれくらい経ったと思うんです?」  私だって。  町の占い師から晴天祈願の人形を買って、この日を心待ちにしていた。  なかなか来られなかったのは私のせいではないのに。そしてこの雨も。 「じゃ、雨の中出掛けてみる?」  二人で馬を走らせて、森の中でランチを取るはずだった。  一年でもっとも美しいこの季節。風を切って自由に森を駆け抜ける喜びは、一度味わうと忘れ難い。 「そんなこと、させられるわけないでしょう」  漸く腰を上げた彼がゆっくりと歩み寄って来る。  手にしたトレイを受け取って、サイドボードの上に置く。そんな何気ない仕草にさえ一縷の無駄もなく、もちろん、ソーサーにお茶を零すなんてことはない。 「……でも、約束した」  思わず声に出た呟きを聞きつけて、彼が形の良い眉を上げた。  ――何があっても、守ります。 「もう、無効かな……」  あれは、子ども騙しの約束だったのかもしれない。  少なくとも彼にとっては。  不意に視界が暗くなり、気がつくと引き寄せられていた。 「いいえ。私がこの世に存在する限り、何があっても、あなたを守ります」  耳元に落とされた言葉に息を呑んで。  思考がまとまる前に告げられた。 「でも、今日は駄目です。馬もかわいそうですし。さあ、お茶を飲みましょう」  すっかり機嫌を直した様子で、カップを手渡してくる。  珍しく笑みまで浮かべて。  全く、調子が狂う。徹底的に宥めるつもりだったのに。  結局のところ、こうして、彼が満足してくれるのならば、雨でも快晴でもどちらでも良いのだ。  本当は。
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