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揺れるような、囁くような弱々しい声。
不安が胸を黒く染め、先生の瞳を探そうと頭を上げようとしたけれど、
先生の手のひらが、やんわりとそれを阻止する。
「お前は………
空を見上げて元の世界を恋しがるような、そんな辛さ、味わう必要ない」
つい最近も、似たような台詞を聞いた。
………そうだ。
あれは、長谷川先生。
そうつながった途端、
悲しい事実に気がつく。
先生………私、分かっちゃったよ。
これは、柔らかだけど………
残酷で。
冷たくて。
悲しいくら優しい、
拒絶だ。
抱きすくめられている両腕をゆるゆると動かして、先生の背中に回す。
先生のしっとりとした体温と、
立ちのぼる薫りがあまりにも甘くて………。
鼻の奥がツン、とする。
それに負けないように瞳をぎゅっと
固く閉じた。
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