第6話

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平日の駅前は、通勤・通学の時間が過ぎれば波が去ったように色を変えていて。 悪いことは何もしていないのに、 時計台の下に立つ自分が見られている気がして居心地が悪い。 時間は約束の10時になろうとしていた。 ーーー4日前。 ついに携帯を元に戻す約束をしていた週末になった。 だけど先生のドタキャンで、 学校の創立記念日で休校になる今日に変更になって。 先生は、「どうしても動かせない予定が入った」って言っていたけど………。 きっと、「予定」は悠花さんだろうってすぐに分かった。 多分悠花さんは、それに私が気がつくことも想定内で……。 わざと先生を捕らえたままにしたんだと思う。 私は…… このお祭りのような、非現実的な夢から醒める最終通告の日が延びたことに、 どこか安堵していた。 だけど。 見覚えのある白いRV車が 駅のコンコースをすり抜け、こちらへ向かってくる。 私の目の前で静かに止まると 助手席のパワーウィンドゥが開いて。 「ドーモ」 私の大好きな、少し照れた先生の笑顔。 「おはようございます」 ゆっくり微笑み返す。 この瞬間。 私と先生の、最後の一日が 音もなく始まった。
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