第5話

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 必然的に映画の話になった。絢人は昔から映画を観るのが何よりも好きだったし、壮真もかなりの数の作品を観ているようだった。中学や高校の頃、塞ぎこんでしまいそうになった時、絢人はいつも映画の世界に息継ぎに行った。自分の部屋を暗くしてひとりぼっちで違う世界へ飛んでいけるその時間が何よりも慰めだった。学校のやつらと鉢合わせしたくなくて映画館には滅多に行かなかったから、その分レンタルの古い映画もたくさん観た。 「へえ、じゃあお気に入りの俳優は?」と壮真は聞いてきた。 「う~ん、今だったらマリオン・コティヤールとか綺麗だな、と思うよ」絢人はわざと女の名前を挙げた。仕事の時間は終わったから、苦手な敬語を使うことも放棄した。壮真は一瞬絢人を見てから、 「ああ、フランスの女優だよな? この前、レオナルド・ディカプリオの映画に出てた」 「そうそう、あとペネロペ・クルスも好きだな。このポスターの作品も好きで、ペネロペの歌っている姿が色っぽかった」 「へえ、彼女は歌も歌うのか」 「いや、その歌はあとで吹き替えだって知ったんだけど、吹き替えだからこそすごいと思ったんだ。本当に歌っているようにしか見えない演技をするから。女優ってすげえな、と思って」 「へえ、俺も彼女は好きだよ。バニラ・スカイのときの彼女はすごく可愛かった」 「ああ、あの作品! 観たことあるんだけど、実はよくわかんなくてあんまり憶えてないんだ。観たのが多分中学生のときだったから」 「……中学生? 俺はもう大学生だった気がするけど」  壮真はそう言って絢人を見て笑った。苦笑いのような、しかしどこか挑発するような目つきで。それからグラスを飲み干して、お代わりを頼んだ。そしてさらりと訊いてきた。 「男だったら? 誰か好きなやついる?」  あまり普通に答えても面白くないと思い、絢人はちょっと受けを狙って言ってみた。 「マシュー・ペリーって知ってる? フレンズっていう海外ドラマに出てた」 「ああ、フレンズは知ってるよ。ジェニファー・アニストンのやつだろ? 何の役の人?」 「チャンドラーだよ。よくゲイに間違われるってやつ」 「ああ、そうか。何となくわかるよ。・・・結構渋い好みだな」壮真はちょっと考えるような顔をして言った。それを見て軽く笑いながら絢人は 「あんたは?」と返した。   
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