妄想は世界を救う

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人の結婚式に出席するのは、恐ろしく寂しさが全身を包む。 結婚式の招待状。 郵送で届いたら、きっと私はなにかしら理由をつけて行かなかった。 ただ、今回ばかりは2人でマンションに現れ、手渡しで招待状を受け取った。 「まゆには、必ずきて欲しくて。ごめんね2人で押しかけちゃって」 まゆ。 そう、私がまゆです。 両親が交通事故で亡くなり、遺産で買った高層マンション。 でも高所恐怖症で、限界ギリギリだったのがこの10階。 まわりには、事故の保険がたっぷり入ったのに10階って‥‥。 なんて皮肉たっぷりに言われたこともあったが、それ以上の階では生活できないんだから仕方ない。 言わせたい奴には言わせておけばいい。 ちょっと脱線したので、戻りましょう。 ともちゃんが来たのは、4月に入ってすぐの日曜日。 数日前に電話で、だいたいの概要は聞いていたが、まさか2人でくるとは思わなかった。 去年、誰かの結婚式の引き出物にあったティーセットを急いで準備した。 オープンキッチンのカウンター越しに2人を見ながら、買い置きしてあるアールグレイの茶葉が開くのをぼんやり待つ。 うちに来て、2人の世界にいる。 カウンターを背に、換気扇をつけてタバコに火をつける。 メンソールは、すっと体にはいって思考回路をつなげる。 タバコを作った人は、素晴らしい。
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