『夢見る光』

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僕はその老人に駆け寄ると、「これはなんの行列ですか?」 と尋ねた。 ロマンスグレー、という言葉が似合うその紳士は、 ゆったりとした面持ちで答える。 「夢を売っているのさ、自分だけの夢」 驚いた。何の得があって、何のためにそんなことをやる人間が いるのだろうか、と。 紳士は、「娯楽さ、この街ではああいった娯楽が流行っているのさ」 と渋い顔で答えた。 紳士から目を行列を作る人間たちへ向ける。 どの人間たちも必死で、まるで生きているかのように。 部屋の端っこで、小さな赤い光を持った女の子が、 笑顔でしゃがんで、その赤い光を見つめていた。 そしてぶつぶつと何かを口にして、涙を浮かべるのだ。 「ここは忘れた何かを必死で求める連中の吹き溜まりでね」 紳士は自重ぎみに笑みを浮かべる。 「貴方はどうしてここに?」 そんな僕の問いに、紳士はポケットからくすんだ色をした 歪んだ光を手に取って見せた。 「私も同じだよ、ずっとここで夢を見続けている」 その光の中に、僕は紳士の家族を見た。 紳士が笑って、生き生きとしているのがわかる。 このすべてを達観したかのような今の紳士とはまるで、 別人のように。 「失った何か…」 僕はぽつりと呟いて俯いた。
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