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「君も見るかね、ここで永遠の夢を」
紳士がこちらに手を差し伸べた。狂っている。
そう思うのは、少なからず僕がまだ希望を持っている
からだろう。
紳士の差し伸べる手を、右手で制して、拒絶した。
紳士は気を悪くした風でもなく、
「そうか、君はそうなんだな」と妙に納得してこちら
を笑顔で見た。
「探しているんです、女性を、僕にとってたった一人の」
そんな言葉を口走っていた。
それを聞いて紳士はさも愉快だと言わないばかりに大笑いした。
「もっていきなさい」と、紳士は別れ際に古ぼけた懐中時計をくれた。
「古ぼけてはいるが、壊れてはいない、その懐中時計は君のような人間が
持っているべきだろう」
そうやさしい表情で言った。
僕は紳士に別れを告げ、貰った懐中時計を握り締めた。
カチ、カチ、カチ、と秒針は時間を刻んでいる。
僕は次の街に向かって歩き始めた。気のせいか、足取りは軽かった。
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