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「私の思う弟子とは、今お前が私を先生と呼んでいることだ。お前が私を先生と思ってくれているうちは、私はお前の先生で、お前は弟子だよ」
「弟子とは、何をするのでしょうか」
「そうだね。まずは、学びなさい。本を読んで、土を耕し、雨に打たれ、痛みを知る。ありがたいことに、私たちは自然に恵まれている。頭を悩ませることも、歩き回って足を痛めることも、空腹に苦しむことも、すべての経験が学びであるから、ありがたく受け止めなさい」
「すべて、ですか」
「すべて、です。そして、わからないことがあれば、尋ねなさい」
修司は自分の腹を抱えるほどに頭を下げると、二つの手を膝に押し付けて震わせた。
「僕が、僕が、かつてに経験したことも、すべてが学びなのですか」
先生は、そっと修司の背に手を当てた。
「そうです。お前を苦しめた今までのことは、すべてが経験です。お前が大きくなる為に必要だったことなのだよ。だから、自分を不幸と思わずに、ただそのあったこととして記憶して、あとは忘れてしまいなさい」
「先生、僕は、苦しいです」
「そうだね」
「先生、僕はずっと先生の弟子でいたいです」
「いいだろう。ずっと、気が済むまで弟子をおやりなさい。そして、いつか気が済んだら、弟子をやめたらいい」
修司は、この言葉にどんなに気持ちが救われたか知れない。
先生との生活は、もちろん貧しく空腹を覚えない日はなかったのだが、過去受けた恐ろしい経験を癒すだけの十分な静けさだった。
修司は、先生と過ごした時間に幸福を感じていた。
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