【心器狩り】

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「チッ、イけカゲども」  低く、高く。不安定な声のまま、心器狩りは端的に命令をくだす。  主命に応え襲い来る影の大波。押し寄せる物量だけで腰が引ける。けど、シエナは勇んで前に出る。 「赤の書3章2節【不滅の炎(インフィニット・レッド)】!」  炎弾の嵐。普段は敵を取り囲むそれが、今は頭上から降り注ぐ。  まさに火の雨。オレたちの顔にまで吹き付けてくるほどの熱量が、ひとつの打ち漏らしもなく、おびただしい影を焼き尽くす。  燃える炎に影が揺れ、映し出される地獄絵図。一面の火の海。それを切り裂きながら迫るのは、起き上がった黒竜だ。  モドキとはいえ空白獸。魔力の塊であり、通常の生物とは一線を画するヤツらには十全か消滅か、ふたつにひとつしかない。  爪も牙も再度鋭く光らせて、咆哮と共に迫り来る黒竜。  迎え撃とうと拳を握る。けど、 「どうせまた無茶やらかしてたんでしょ。あんたも休んでなさい」  ポンと肩を後ろに軽く押された。心器を使ったツケが予想以上に足へ来てたらしい。それだけで足がもつれてバランスを崩す。  へたり込んだオレと、慌てて駆け寄ってくれるノエル。迫る黒竜を背景にシエナは強く笑ってみせる。 「ここはあたし一人で十分よ!」
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