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ほとんど閉じた空間の裂け目。もはや追いかけることは叶わないそこから、小さな欠片が投げ込まれる。
放物線は竜を越え、龍を抜け、燃え立つ炎の海にポトンと落ちた。瞬間だった。
鬨の声が世界を埋める。地鳴りのような重低音。炎の中で消滅と再生を繰り返す影たちが、両の手に武器を構えて叫びを上げる。
いや、正確には叫んでるわけじゃないんだろう。
魔力の鳴動。注ぎ込まれた大量の魔力が共振を起こし、震えた大気が音になる。
「魔力蓄積系の彩色片!? 独りで使うには心器の数が多過ぎると思っていましたら、そんな物まで用意してありましたの!?」
ようするに魔力のドーピングか。
強化され、炎の中でも蠢き始める影の群れ。さらにその後ろでは影の一部を鎧に纏う黒竜の姿。
逃げる時間稼ぎか、去り際の嫌がらせか。最後に投じられた一石は、激動となってオレたちを襲う。けど、
「メンドくさいわねッ!」
一言だった。
鎧袖一触。指揮するように振るわれた腕に導かれ、炎の羽根が宙を舞う。生み出されるのは火炎の渦。
逆巻く熱波に呑み込まれ、激しさを増した影の軍勢も一歩も進めず燃え尽きていく。
それは強化された黒竜も同様だった。炎にまかれ、熱波に呑まれ、影の鎧は意味をなさない。
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