【色無き器を満たすモノ】

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 赤の魔女。シエナがそう呼ばれる所以は、ひとえに心器『赤の貴婦人』によるものだ。  所有者の赤の魔力。その流れも、密度も、波長にいたるまで全てを恣意の元に置く。各属性に存在する色の支配者、そのひとつ。  それによってもたらされるのは完全な魔法。一般的に使われる魔導書魔法とは一線を画する真の意味での世界の書き換え。  瀟洒なドレスを纏ったシエナにとって、赤が司る炎と熱は手足も同然だ。  ただ、それだけ強力な心器ではあるのだけれど、ギルトのランク付けについてはあまり役に立たなかったらしい。  あれで見られるのは判断力と対応力。戦闘能力も大事な要因ではあるが、赤の貴婦人は最大戦力こそ高いものの、現状のシエナではガス欠を起こしやすい。  ギルドの判定基準的には『将来は期待できる』くらいもんだったそうだ。  じゃあ、シエナのBという学生間では頭ひとつ抜けたギルドランクはどこから来たのか。  戦いに明け暮れていた時間と経験。ノエルを助けるために中学へ上がる前から戦い続けてきた執念が、シエナをここまで登らせたんだ。  そんな確かな経験に裏打ちされたシエナの戦いは時に憧れるくらい鮮烈で、そこにある実力差はただただ羨望するしかないくらい圧倒的……なんだけどさ。 「ふぁみ、ふぁんふぁはふぁふぇふぁふぃふぉ?」 「いや、詰め込みすぎだろ」  やっぱ憧れるようなもんじゃねえな、これ。
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