【色無き器を満たすモノ】

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 口いっぱいに頬張ったコロッケ。言葉を埋めるそれを飲み込んでから、シエナはもう一度訊いてくる。 「あんたは食べないの?」 「そうだよ! 王様は食べないのー?」  シエナに続く元気な声。頭の両サイドで短くまとめた赤髪を、ピョコピョコ跳ねさせ笑うのは肉屋のチビッ子、ニノだった。 「朝からよくそれだけ食べれるよな」  いや、まあひとつは貰うけどさ。  ニノが差し出してくるコロッケを受け取って、サクリと一口かじりつく。  サクサクの衣を抜けると溢れ出るジャガイモの甘味。肉の旨味も相まってやっぱり美味しい。  けど、普通いくら美味しくても朝からその量は厳しいっての。 「包丁のお姉ちゃんは食べないのー?」 「わたしは、その……じゃあ、ひとつだけ」  現にほら、ノエルのやつも店頭に積まれた山盛りのコロッケにあんまり手を伸ばしてないし。 「うぅ。朝から油物だけでは、やっぱり危ないかもしれません」  プニプニと摘まんでるのは二の腕。  あ、気にしてるのはそっちか。まあ、シエナに比べるとノエルの方が多少柔らかそ── 「【氷剣(アイス・エッジ)】 シロウさん、何か?」 「いえ、何でもありません!」  晴れ渡る朝の商店街。その一角にある肉屋の店先で朝食中のオレたちなのだった。
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