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「ごめんなさいね。あなた達が来ることは連絡をもらっていたのですけれど、さすがにギルド全員までは通達が間に合わなかったの。さあ、奥へどうぞ」
「マスター! そいつは色無しだぞ!」
上げられた言葉は完全スルー。柔らかな言葉のまま、赤のギルドマスターは続ける。
「ほら、みんなは戻っておきなさい。ジェド、あなたもよ」
「でもよ!」
「ジェド?」
「………………はい」
涼やかな微笑。それだけで黙らされるヤンキーだけど、気持ちは分かる。
表情は優しいのに、纏う空気は野獣のそれなんだ。これは逆らえない。
遠ざかってく背中を見送ると、改めて着物の女性は向き直り、
「騒がしくて本当にごめんなさ──」
硬直。言葉も動きもすべてが止まる。けど、それは一瞬だった。
「まさか……」
次の瞬間には視界いっぱいに広がる赤。目の前に迫った着物の女性がペタペタと顔だの肩だのを触ってくる。
へ? え? なに?
突然の出来事に誰も反応できない間にも、時間だけが過ぎていく。
ただ、されるがままの状況でひとつだけ気づいたことがあった。優しげな笑み。それを感じた理由のひとつに細められた目があったんだけど、違う。
この人、目が──
「そう、そうなのね」
思考が止まる。止まらざるを得ない。だって、オレは深紅の着物に抱きしめられてたんだから。
空気が凍る。もはや修復不可能なくらいの混乱。
「ちょ、ちょっと待ってください! シロウさんに何してるんですか!」
それに風穴を空けたのは、よく聞き慣れた声だった。
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