【色無き器を満たすモノ】

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「えっと、たしかにそうですけど」 「私も銀嶺館で暮らしていたのよ。とは言っても学生時代の話だから、もう20年くらい前になるのかしら」  懐かしさにふけるようにオレたち二人を眺めながら、レイラさんはポツリポツリと言葉をこぽす 「懐かしいわねえ。あの建物は元々ボロボロでね、それを私の友達が買い取ってアパートにしたの」 「友達って、学生が買い取ったんですか!?」 「そうよ。普段から思い付きで色々しでかす娘だったのだけど、ボロアパートでの共同生活がしてみたいなんて突然言い出してね。私を含めて何人か引っ張っていかれたのよ」  楽しそうに、愛おしそうに。大事な宝物を自慢するように、レイラさんは銀嶺館での思い出を語ってくれた。  闇鍋をしてみんなでのたうち回ったり、炎の魔法で焼き肉をして危うく火事になりかけたり。  古いアパートなんだから昔の住人がいるのは当たり前だ。  けど、オレにとってノエルやシエナ、イロさんと騒がしく暮らす家である銀嶺館で、他の人たちが同じ様に楽しく生活してた話を聞くのは、ちょっと不思議な感じがする。
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