3510人が本棚に入れています
本棚に追加
考えるヒマはなかった。
駆け出す。反射的に一歩を踏み出し、瓦礫の山を踏み越える。
併走するのは白い影。白衣を纏ったシエナだ。
「シロウ!」
「こっちだ!」
一分が、一秒が、おしい。残り少ない魔力がもどかしい。
扉の残骸を蹴り開けて、暗い廊下に飛び出した。
一直線。距離もそうない。
強化された脚力で、階段前までたどり着く。
道を塞いでいたはずの氷の壁はなくなっている。
緑のクモもどこにもいない。
それだけじゃない。
動く気配が何もないどころか、戦った跡すら一つもなかった。
「……ノエル?」
それがどちらの口から漏れたのかすら分からない。
ただ、それに対する返答はいつまで待ってもありはしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!