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「……ちょうどいい」
零れた呟き。その意味を問うより早い。
大きさからは想像もつかない俊敏さ。足の一本がウルスの頭へ振り下ろされる。
「ウルスさんッ!!」
今度は振り返りもしなかった。
「……切り開け『白の聖人(イノセント・ホワイト)』」
右手に剣が握られる。刀身も柄も、すべてが純白の西洋剣。
けれど、それが振るわれることはなかった。
剣の出現と同時に背中に広がった八枚の翼。まるで別の生物であるかのごとく自在に動き、クモの攻撃をさばいて流す。
「白の支配者ですか!?」
「……そう。これとわたしたちの魔力があれば、こんなこともできる」
ウルスがクモへ手をかざす。
「《白の理(リ・コントラクト)》」
瞬間、ではない。刹那、すら長い。
「………………え?」
気づいたときには終わっていた。
クモの巨体は、どこにもない。圧倒的な破壊の爪痕。階段は半ばからえぐり取られ、周囲の壁ごと崩れ始める。
白の得意な幻覚でもない。充満する焼け焦げた臭いが、空白獣の残滓である緑の魔力が、雷撃が敵を撃ち抜いたことを教えてくれる。
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