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ネオンの光が街を照らす。
きらびやかなスーツを身に纏う者、露出が激しい服で自慢のボディをちらつかせる者が大半を締める中。
フードつきジャンパーに太ももを大胆に晒したラフな格好で道のど真ん中を機敏とした態度で歩く女性が一人。
優雅に、音もなく、その凛々しくも脆い横顔にもうダメだと感じた。
他の女なんて目が入らないぐらいその女性の立ち振舞いに魅せられた。
店の看板ホストと思われる男がたまらずにその女性に声を掛ける。
「ねぇ、君。これからどこ行くか決めてる? もし良かったらさあ、俺の店に寄っていかない? サービスしちゃうよ」
「…………」
「あ! なんなら個室も用意するし、君はきてくれるだけでいい。勿論金だって俺が払うからさ」
「…………」
「……せ、せめて連絡先だけでも」
数多の女性を虜にするであろう甘いマスクをこれでもかというぐらい潮らしくさせるその様に彼女はクスリと微笑んだ。
比喩でもなんでもなくその表情にクラリと目眩がした。
「じゃあさ、住居、提供してくれない?」
「え……」
「夏はいいけど、今この季節じゃん? 野宿なんてしたらさすがに凍死するわ。ついこの間まであったネグラも失って私帰るとこないのよ」
物凄いスピードで有り得ないことを聞かされた気がした。
都合のいい夢を見ているのだろうか?
男は確認の意を込めて彼女に尋ねた。
「……それって、君を連れ帰ってもいいってこと?」
「ダメなら他当たるわ」
「待って!! 寧ろ、歓迎するよ。それに、俺なら君を養っていけるだけの財力はあるしね」
「いや別にそこまでしなくて結構だけど」
「ううん! 俺が、そうしたいんだ。そうだまだ名前聞いてなかったよね?」
「私の名前は南雲桜夜。少しの間よろしく」
「俺は――――」
少しだなんてとんでもない。
願わくばずっとずっとこの女性を傍に置いておきたいと思った。
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