なかよしバスケット

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ポカポカとしたひざしの中で、展示中のお人形たちはお昼寝をしているようでした。 そこは小学校の廊下です。窓辺に机を並べて、手芸クラブの作品がかざってありました。 いろんな大小のお人形やぬいぐるみ。 その前にタイトルや作った人の名前が書かれたガードがありました。 どれも力作ばかりです。 ある人形の前で、女の子が一人立っていました。 作品名は「なかよしバスケット」。 広めの籐のかごの中にポツンと、赤い三角帽子の赤い服の小人が1つだけありました。 名前はなぜか五人分。 和子、美咲、恵美、ナオ、彩花。 この人形を五人がかりで作ったとは思えない大きさです。 その小人を顔の前に持ち上げて、 「どうして、こうなっちゃったの?」 女の子は悲しそうに語りかけました。 目の前の人形の髪がたと同じく、耳の下で二つに分けて、その似たようにパッチリした目をのぞきこんでいると 「一人はさびしいね」 お人形の声が聞こえました。 空耳のようにたよりなくて、その小人をギュッと胸にかかえこむと、その子は走りだしました。 「和子ちゃん!」 誰かが呼び止めてくれたようですが、かまわずに走りました。 泣いてる顔を誰にも見られたくなかったのです。 「悲しいね」 非常階段のおどり場までくると、人形がいいました。 もう夏だというのに、日かげで陰気な苔だらけの階段は寒いくらいです。 和子は、小学六年生でした。 人気のある手芸クラブに入れて、春はウキウキしていました。 クラブとは学年に関係なく、表の中から自分の好きなものを選べる授業の1つでした。 ただ定員が決まっているので、人気のあるところはすぐいっぱいになってしまいます。 「美咲、走って行くのよ。今年こそは手芸クラブに入るんだから」 おとなしい美咲をせかせるくらい、和子ははりきっていました。 美咲はストレートに長い髪をかるくゆらして、返事にかえるくらい、あまり話をしない子でした。 和子がおしゃべりなので、そんな聞き上手な美咲が大好きでした。 クラブの教室に入ると、となりのクラスの恵美とナオがいました。前同じクラスになったこともあるので、うれしくなって声をかけました。 「となりにすわっていい?」 ナオはスポーツ万能でスラリとしていて、さわやかにうなずいてくれました。 恵美は丸い体つきで、陽気に笑ってくれました。
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